暮らしのトラブルQ&A 【Vol.55】
借家明け渡しの際、大家から敷金が返せないと言われたが… 【相談者/45歳(女性)】
Q 私の家族は5年前から今の家に住んでおり、家賃月8万円で、敷金3カ月分を支払っています。このたび引っ越すことになったのですが、大家さんから、古くなった畳の取り替えやクロスの張り替えなどのために費用が掛かるので、敷金は返還できないと言われました。仕方がないのでしょうか。
A それはおかしいと思います。敷金とは、建物賃貸借契約を終了する際に、明け渡すまでに生じた賃貸人の賃借人への一切の債権(未払賃料や賃借人の過失による家屋の破損などの損害賠償債権など)を担保するものです。
ですから、畳やクロスが古くなるなど通常の使用方法によって生じる自然の劣化・損耗については、敷金とは無関係の問題です。ですので大家さんがこの費用を敷金で賄うことは原則としてできません。
Q でも大家さんは「借家人には原状回復義務があるから、畳やクロスも元通りにしてもらわなくては」と言っています。
A 確かに賃借人には原状回復義務がありますが、それは賃借人が設置したものを取り除かねばならないということであり、畳やクロスなどの自然の劣化とは無関係です。
Q 借家の賃貸借契約書には「室内建具、壁紙等の破損、汚れは一切賃借人が負担する」との特約が書いてありますが、それでも大丈夫なのでしょうか。

契約にトラブルはつきもの。困ったときは一人で悩まず、専門家に相談を
A 多くの裁判例では、このような特約は原則として無効としております。ただし、このような特約について合理的内容が存在し、賃借人がこの特約内容を十分認識して意思表示したなどの特段の事情がある場合は、例外的に有効となる余地もあるとしております。
ですから、あなたのように特にそのような事情も見当たらない場合は、このような特約は無効であり、やはり大家さんが敷金を畳やクロスの張り替え費用に充てることは認められないということになります。
山下江
広島弁護士会所属。
広島市中区 山下江(やましたこう)法律事務所
「山下江法律事務所」のホームページはコチラ
提供:広島リビング新聞社
(「リビングひろしま」2013年1月19日号掲載)